私は頸動脈に聴診器を当てるように教育されてきました。 もう癖になっています。 慣れた患者さんは、私が「はしょって」通常の胸部の聴診をしようとすると、首の部分をだして待ってくれていたりします。

さて、昨年は「初診」できた高血圧をもつ患者様で、主訴は感冒だったのですが、血圧も今後は当院で、ということだったので、頸動脈の音をきくと、、、右の頸動脈で雑音がします。 左の頸動脈は全く雑音がないので、感冒も大事だけど、「首の部分のエコー検査をさせてください」で、エコー検査をしてみると、血管の内側にひらひらした紐状のものが見え、即刻、脳神経外科に入院の依頼をしました。 入院後2日目で脳梗塞を起こしたものの、すぐに対処でき、後遺症なく退院され、今は高血圧と血をサラサラにする薬を飲みながら、半年後にMRIをその病院にとりにいくことになっています。
頸動脈エコーでは、中膜内膜複合体(IMT)の厚さで、だいたいその方の血管年齢がわかります。 治療は食事をかえたり、もっとも効果があるのは、EPA製剤、EPA/DHA製剤、血圧が高いなら下げる、糖尿病を良くする、高脂血症をよくする、などです。 血管年齢をよくすると同時に、プラークといって、1mmを超える厚みは、時に中身の脂成分が飛んで行って、脳梗塞を起こします。 これが、頸動脈 から 脳内の動脈 の 脳梗塞です。
頸動脈エコーは非常に大事な検査だと思います。 実は心臓の血管の狭窄度とも関係していると報告もされているのです。 実際にEPA製剤、EPA/DHA製剤を内服すると半年後にはIMTが薄くなり、プラークは安定化して中身が飛び出さないようになっています。 私の論文では、飲みだして、2ヶ月後にはすでに動脈硬化の指標である、PWV(動脈内を動く血流の速さです。 これが遅いほうが、血管がしなやかと言えます)が統計学的に良くなっているという論文が認められて、世に出ています。

雑音が聴かれて、そのままにしておくのは怖いことだと思います。 なぜなら普通は雑音は血管に異常がないと絶対に聴かれません(心臓の雑音が伝播する場合を除いて) そして「検査でお金は減るけども、健康寿命は増える(個人のお金、資産も大事だと思います。 しかし結果、大きな病気が発生して、よりお金がかかってしまう場合もあります。 命あっての物種ではないでしょうか?)」のは間違いないとすでに報告されているのですから。

色んな映画でも、最終的な「悪もの」の最終目標は「不老不死」でしょう。 でも、映画は人間が作るもの。 いつ死んでもいい、と思う方もおられるのかもしれませんが、健康で不老不死、も悪くはないのではないでしょうか?
例えば数年前、脳内のアミロイド蛋白を除去する注射薬が臨床で実用化されるかも、という論文に胸躍ったのですが、実現はできていません。 つまりアルツハイマー病などの認知症は、今の所「完全に治す」ことは出来ないが、「今後に期待」できる、と思っています。 そのためには、今現在の認知力を保たなければ、精神的な健康がどんどんと損なわれてしまいます。 認知症は、BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia:認知症における行動と心理症状、かつての周辺症状)という、介護する人がこまる症状、具体的には、暴言・暴行、夜間せん妄、昼夜逆転、興奮、幻覚、抑うつなどのことです。 つまり、人間関係、周囲の環境、で出てくる症状と言えるでしょう。
それに対し中核症状とは、一言で言えば、記憶障害、です。 私自身の治療方法としては、実は1番にBPSDを、2番に中核症状を中心に治療を考えています(2018年3月現在) すでにBPSDがある方には、原因となる薬を「減らす」こと、漢方薬や、糖尿病の有無によって内服薬を追加すること、一時的に興奮を抑えること、抑うつに対しても漢方薬やある種の認知症の薬が少ないので増量すること、で対処します。 あとは介護者が大変になり、認知症患者様の治療にとって悪循環となるので1番に、と考えているのですが、例えばデイサービスを変更する、「お試し」といって、ショートステイを使用してみる、など環境面で介護者を守ることが大事ではないでしょうか? 中核症状を治す薬は3種類ありますが、私自身は2種類を使い分けています。 「アリセプト」という飲み薬が基本です。 この薬を上手く使えないと、抑うつ状態のときに対処できません、ピック病にも現在日本では、保険適応が通っているという点、一日1回の内服ですむのが良い所です。 BPSDがでそうな人には、イクセロンパッチという張る薬を私はかなり長い期間で増量をするようにしています。 理由は、通常容量の18mgになる前の9mgから、13.5mgに増量したときに、元気がない、などの症状が出る方がおられることが経験的に分かっているからです(その場合9mgで維持します) そうでない方には、最近は9mgからの開始も認められていますので早めの効果を期待して処方することがあります。 「レミニール」は施設に入っている方などではいい薬だと思いますが、なにせ一日2回の内服であり、自宅で過ごす人には不向きだと感じています。
さて、なぜ認知症の薬を内服した方がいいのか、それは、現在の薬は、野球で言うと、「中継ぎピッチャー」の薬だと、私は思うからです。 いずれ「治してしまう」薬が出るまでの間、できるだけ、中核症状を進ませたくない、ということ、また逆に認知力が良くなりますので、それも期待して処方します。 認知症の方は、時間、場所、人の順番に忘れて行きます、最後には体を動かすことをわすれてしまし、寝たきりになってしまいます。 それを防ぐ為に、中核症状の薬も必要となってきます。 昨今、BPSDが一人歩きし、認知症の薬が良くない、とされていますが、そんなことはありません。 実際に、認知症の試験だけでなく、家族の方からの「出来ないことができるようになった」や、心臓リハビリテーションをしていて、口数が増え、予約の時間を忘れることがなくなった、ということで実感をしています。

7−8年前は、食物アレルギーがあり、食事直後に激しい運動をすると、呼吸困難などのアナフィラキシー・ショックを起こすことが、小児だけでなく成人でも問題になっていました。
最近では、スギ花粉症の方は、トマト(キューイも)を煮込まないで食べると、10%の確率で口の中がピリピリするという、口腔内アレルギーが有名になっています。 その10%の中のものすごく少ない人数では呼吸困難などを引き起こすという報告があり、TVで紹介されたようです。
さて、リーキーガット症候群も、そろそろTVで出てきてもおかしくないな、と思っています(もうすでに紹介されているのでしょうか?) 下痢・便秘を繰り返したり、アルコール・甘いものを食べる人に、腸の働きが弱ってしまって、体調が悪くなる、という病気です。 大きな原因の一つに、腸内のカンジダという真菌(カビの一種)がいることが報告されています。 検査は、採血検査でできますし、症状から診断することもあります。 治療に関しては、食事療法(当院でうけられます)もですが、一般のサプリメントなども紹介されているようですが、海外の報告では、「ロトリガ」という、EPAとDHAが腸内フローラをよくするので効果があるとされています。

私は糖尿病治療に関しては、ただ単に血糖値を下げればいい、は間違いで、同じ下げるにしても、その過程にこだわる治療を心がけています。 糖尿病の治療薬には色々あり、膵臓を酷使して下げる薬で血糖値をさげてもいいことはありません。
さて高血圧はどうでしょうか? これは、過程も大事ですが、目標値まで下げること、が優先されます。 もちろん患者さまにあった治療薬を選択するのですが、最終的にどこまで下げたか、でその方の長生き度が必ず変わります。

私は上記を念頭において、さらに新しい知見を勉強しながら治療していますが、上記と逆の考え方で治療されている患者さまがおられる場合があり、危惧しているのが現状です。

※血糖値は最終的にどこまで下げたかが大事、血圧はそこそこ下げていれば症状もないから大丈夫、といった具合が良くない、と言い切れます。 最近の潮流は私の意見で間違いありません。 古い治療をされているな、と思ったら、相談に来てください。

私が医師になるだいぶ前はインターン制度といって、大学を卒業した後1年間の不安定な給料のもと、実地医療を積んだ後、医師国家試験をうけられる制度であり、約40年前に廃止されました。 この制度はどうだったか経験がないのでなんとも言えませんが、現在65歳以上の医師はその制度を受けていた可能性があります。 その後は法律上「研修医」という言葉はなく医師国家試験に合格した時点で「医師」となるのですが、どんな医師もどこかの医局に入るのが当然の時代でした。 流れとしては、卒業した大学に残ってそこの大学の医局に入り、その大学病院が「ジッツ」といって「支配」している病院に医局員を派遣して、臨床力を鍛える、大学病院では研究をする、という制度でした。 最近はマッチングといって、自分が行きたい大学や病院を書いて、医師国家試験以外に試験をうけて、そこに受かればその大学(医局ではない)や病院の「研修医」として、全科を2年間まわって、その後専門の科にはいるか、医局に入ります。
さて私は、マッチングに移行する前の世代です。 沖縄中部病院という有名な病院で研修医が過労死したのが衝撃的でしたが、私の周囲の友人は、逆に自分を鍛えたいから、医局はいつでも入れるので、一般病院に行きたい、といって英語でそこの病院の勉強をしていました。 私も、後からくるマッチングの医師に負けたくない(実際はマッチングの最初の時期はお粗末な制度(今は大学や病院によると思います)で、学生の延長だったので全然驚異は感じませんでした笑)という思いもあり、京都の日赤に受かり、上層部が教育熱心で、現場は慣れてない、という感じでしたが、2日に1日当直の手伝いをして、救急医療をしながら、消化器内科を目指し、糖尿病、循環器を中心に研修しました。 現在は、学生の取り合いのようで、「うちにくると、こんなことを教えます」、さらに「よくきてくれました。 当病院(大学含む)のどこかの科に入ってくれれば、こんなことを責任をもって教えるよ」 という時代です。 昔は努力しなくても「だいたい同じレベル」の医師が生産されていた時代(頑張ったり才能がある医師は特別伸びる、のは今も同じ)、から今は、「教えてもらって当然」という研修医も多く、実際はかなり自分の努力がないと、取り残されている医師も多いのでは、と思う医師もいました。 「教えてもらって当然」という医師の気持ちは分かります。 徳島大学時代は5年生の循環器の学生さんを教える係をしていたんですが、私は「背中をみて盗め」は大嫌いだったので、自分自身が教えられることはすべて教えてました。 やる気がある学生には、私の仕事が終わる(実際は終わってない)20時から学生に教えたり、病院勤務時も自分の知識や、「私の勉強法」のすべて教えていました(自分を出し惜しみする医師は多いのです) そうしないと、患者さんの迷惑になると思ったからです。
最後に、マッチング以降の医師は社会背景(医療崩壊)もあり、多様化していて、意識が低い医師もいれば、楽な科(もしくは厳しい科でも自分の手をよごさない仕事を専門にする)医師が増えています。 もちろん意識が高い医師もいますが、私の時代は、少なくとも、「地べたを這いずりながら」24時間勤務体制で患者さんを診て、そのかわり、上級医に極意を教えてもらったりしてもらっていたのですが、今の医師は、自動的に教えてもらえるので(そうしないと、その病院の科に入ってもらえないので)、ハングリーな医師の絶対数は減ったな、と思います。
医師という職業は、「お金儲け」ではないと思っています。 しかし最近は「サラリーマンになりたくないので医師になり、責任はもちたくない、プライドの高い公務員医師」が生産されている感じです(もちろん、徐々に意識が高い研修医もいて頼もしく感じます) 人それぞれの考え方があると思いますので、それを否定するわけではなく、私自身のスタイルは変わっておらず、自分の教えられる範囲のことは全て出し惜しみなく話すようにしています。